昨今、データプライバシーやデータの利活用にかかわる規制を遵守する必要があるため、従来の機械学習モデルは中央集権的にデータを扱うことに代わって、連合学習(Federated Learning)が注目される。連合学習は中央サーバーやクラウドからデータを取得する代わりに、分散している環境でモデルの学習を可能にする。そのため、プライバシーが保護され、個人情報や機密情報等のデータを交換することなく、AIアルゴリズムを学習することができる。近年、連合学習を導入する企業やユースケースの開発が急増している。

市場予測

– 世界の連合学習市場は、2020年に8,110万ドルとなり、2026年までには13.0%のCAGRで成長し、1億6880万ドルに達すると予測される。

– AI、ビッグデータを活用したソリューション、Eコマース、金融サービス、保険、ヘルスケア等の業界向けの連合学習が、地域横断的に成長すると予測される。特に創薬やIoTソリューションへの注目が高まり、企業はデータプライバシーを保護しながら、さまざまなソースからのデータを参照することができ、連合学習の導入が加速する。

地域別のインサイト

– 米国では、医療保険の相互運用性と説明責任に関する法令(HIPAA)により、企業が患者データを扱うことが困難になっている。また、カリフォルニア州では消費者プライバシー法が制定され、データの利活用が規制されるようになった。こうしたデータ規制とデータプライバシーへの高い関心が、同地域の市場成長とソリューション開発を促進する主因となっている。

– 欧州では、多数のソリューションプロバイダーが存在し、また一般データ保護規則(GDPR)の規制が市場の成長を後押しする。欧州は今後数年間では最大の市場規模を占めると予測される。

– アジアでは、AIやビッグデータなどの技術導入が進み、市場需要が市場成長を後押しする。一方、アジアの規制機関は欧米と同様に、今後データ収集や取引を規制するための新たな法令が定めらるため、連合学習の実装が広がると考えられる。

 

特許調査

2018年から2020年に2,139件の特許が出願され、データ交換の特許出願が注目されている。また、管理スキーム、ネットワーク、モデルのパラメータ決定方法への出願も多い。

 

 

 

 

 

主要企業の動向

  1. プライバシーを重視したWeb広告:Federated Learning of Cohorts (FLoC)

FLoCは、同じ関心を持つ消費者グループをクラスタリングして、関連するコンテンツや広告を消費者に届けるための連合学習である。2021年1月、GoogleはFLoCがCookieベースのアプローチと同等の効果であると発表した。

 

  1. 信頼できるAIを構築するための新しいWatsonの機能

2021年4月、IBMはWatsonの新機能として、新しいデータプライバシー管理機能、計画予測の説明力強化、新しい連合学習機能などを発表した。Watsonの連合学習機能は、企業が組織横断的に個人のデータセットを使って機械学習のモデルを学習できるようにするため、サイバーセキュリティ、データプライバシー、データトラフィックコストなどの問題に対処することができる。

 

  1. AIモデルの学習を容易にするTAO(Train, adapt, and optimize)フレームワーク

NVIDIAはGPU搭載プラットフォーム向けに、AIモデルを簡単にトレーニングするGUIベースのTAOフレームワークを発表した。TAOはデータ準備、トレーニング、最適化など時間のかかる作業を省くことができる。また、連合学習技術にも対応し、例えばコロナ患者の重症度を予測し、患者に酸素補給が必要か否かを判断するために活用された。

 

  1. ブロックチェーンを活用したデータマーケットプレイス

2021年5月、ノキアは連合学習を備えたプライベートブロックチェーンによるデータマーケットプレイスを開始した。同マーケットプレイスは、顧客の戦略的な意思決定を支援することを目的として、グローバルモデルを共有することで連合学習を採用した。

 

  1. 信頼性の高いインテリジェント・コンピューティング・サービスにより、安全なデータフローを実現

ファーウェイはインテリジェント・コンピューティング・サービスを含む6つの新製品とサービスを発表した。同サービスは、データのプライバシーを確保しつつ、データのオープン化、共有を実現するために、連合学習を活用する。

 

  1. がん研究のための連合学習

2021年4月、腎臓がん協会(KCA)はSecure AI Labs(SAIL)と提携し、患者データの追跡・管理に連合学習を活用することを発表した。KCAはSAILのプラットフォームを活用し、患者のプライバシーを守りつつ、さまざまな病院の重要な医療データを管理する。これにより、がん治療の研究開発を加速させることを目指す。

 

最後に

企業は連合学習に関連するサービスの開発、地域間でのソリューション展開を加速するため、連合学習のインフラと開発者コミュニティを構築する必要がある。そのため、開発者がインフラとデータセットにアクセスしやすくなり、新しいソリューションの開発が加速される。

また、企業はTensorFlow FederatedやFATEなどのオープンソースを活用することで、開発者や利用者は実証実験や技術導入を促進することができる。企業は開発者コミュニティと協業し、標準的なガバナンスフレームワーク、データセントの共有等を通じて、共創でイノベーティブなソリューションを開発できる。

詳細はこちらにてご確認ください。

【レポート(英語)の詳細】

”Federated Learning: New Approach to Building AI Models”

【日本語要旨】:


洪 偉豪(コウ イゴウ)
成長戦略マネージャー/テックビジョン(新興技術)

 

広範囲なセクターでの経験を有し、様々な業界の経営陣と長期的な関係を築いている。
以下の業界にて10年以上の経験を持つ:

電力&ユーティリティ/ICTテクノロジー/バッテリー

 

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