フロスト&サリバン モビリティ部門(アジアパシフィック)シニア・コンサルティング・ディレクタ

本多 正樹

 

世界の電気自動車(EV)の約半分を保有している中国のEVメーカーのひとつであるNIO(中)は、”バッテリー交換式”と呼ばれる空のバッテリーと満充電されたバッテリーを交換することで充電する方法を採用しており、注目を浴びている。この充電技術は、現在他社ではあまり例を見ないが、実はいくつかのメーカーによって採用された実績がある。その代表的な例として米国のベンチャー企業であったベタープレイスが挙げられるが、結果的に市場には受け入れられなかった。その他のEVメーカーも同様の充電方式を採用したが、ユーザーの反応は悪く普及には至らなかった。そこでグローバルなEVシフトの勢いがあるにも関わらずバッテリー交換式EVが苦戦を強いられる原因と、普及への道筋について考えてみたい。

 

EVはモータを駆動するためのエネルギーをバッテリーに蓄えており、走行で消費したエネルギーはバッテリーに再度充電しなければならない。一般的にEVの充電を行うためには、商業施設や高速道路のサービスエリア等に設置されている急速充電設備や、家庭での普通充電設備を利用する必要がある。これらの充電設備を用いたバッテリーの充電は、従来の給油に比べるとより多くの時間がかかり、EVの普及における障壁の一つになっている。そこで提案された充電方式が、EVのバッテリーを丸ごと交換し充電する”バッテリー交換式EV”である。

 

この方式では充電したい車両を充電設備に持ち込み、空になったバッテリーを満充電のバッテリーに交換することで、従来の給油作業と同等もしくはより短い時間で車両を満充電状態にすることができる。実際にEVメーカーであるテスラ(米)は一台を給油する間にバッテリー交換式EVのバッテリーを二台交換するデモンストレーションを実施した。そんなEVの充電時間という重要課題を克服しうるバッテリー交換式だが、いくつかの課題も存在する。100キログラムを超えるEV用バッテリーは人間の力で交換することは不可能であり、大型機器の設置が充電ステーションには不可欠である。そうした設備は初期投資額が大きく、充電ステーションの運営組織にとっては高い参入障壁となる。また何車種ものEVのバッテリーを同一の設備で対応できるようEVのバッテリー形式を統一する必要がある。しかし、バッテリー規格の統一は、車両設計に対して制約がかかるため、EVを開発するメーカーの理解は得にくい。また車種もしくはメーカーごとに充電拠点を設置することも、実現可能性が低いと言わざるを得ない。これらの課題より乗用車でのバッテリー交換式EVは普及には至っていない。

課題が多いように見えるバッテリー交換式であるが、その特性と社会的需要の適切な組み合わせを考えることにより、普及へのシナリオが見えてくる。たとえば近年、東京都内でも見られるようになった電動キックボードをはじめとしたシェアリング用の小型電動モビリティに搭載であれば、小型であるゆえにユーザーが自らバッテリー交換を行うことが可能である。実際、台湾の電動スクーターメーカーであるゴゴロは、バッテリー交換式スクーターを台湾で広く普及させており、海外への展開も始めている。そのほかにもタクシーや緊急車両のように車種を統一することが可能で走行区域が限定的な車両であれば、拠点にのみバッテリー交換設備を設置することでEVのバッテリー交換が実現できる。逆に不特定多数の目的地への移動を目的とした乗用車や、長距離輸送用トラックは休憩を兼ねて充電することが可能なため、バッテリー交換式である必要は少ない。

世界的な環境意識の高まりと、中国などの巨大EV市場があらわれた社会において、バッテリーの充電時間を短縮することのできる充電技術は魅力的である。現時点では普及に至っていない技術であっても、今後も多種多様化する社会的要望を先読みし、その魅力を引き出す領域を見極めることが普への第一歩となる。バッテリー交換式EVの普及も、まずはその強力なメリットが活きる事業領域がどこにあるかを模索するべきである。

         

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