オメガ3は栄養脂肪の1種で、その油脂分から心臓血管系およびその他の慢性疾患と負の関連があるとされてきました。しかし、とりわけアジア太平洋(APAC)地域の消費者の間で、長年かけ、オメガ3の健康上のメリットがあると認知され始めました。オメガ3の最も一般的な成分には、EPA、DHA、ALAなどがあります。特に、DHA、EPAは微細藻類油から調達可能です。その潜在性から、微細藻類由来のオメガ3の2019年の市場価値は、6.41億米ドルと評価されました。同市場は、植物由来のオメガ3(年平均成長率8.51%、2019年の市場価値5.68億米ドル)を超える、年平均成長率12.04%という楽観的な見通しもあります。
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オメガ3の一般的な最終用途には、栄養補助食品、幼児栄養関連製品、食品、飲料、化粧品、パーソナルケア商品などがあります。微細藻類油の2019年の市場価格はキロ当たり約60米ドルと、高価格です。今後数年で、微細藻類由来のオメガ3の価格帯は、より効率的な生産方法の確立、競争の拡大により、下落、安定していくでしょう。中国、韓国、ベトナムなどのAPAC諸国では、微細藻類由来のオメガ3の生産を拡大し、全体的な価格の低下をもたらしています。
微細藻類由来オメガ3の生産最大化
微細藻類からオメガ3を調達することは、サステナブルで安全、そしてヴィーガンに配慮した手法として注目される、新たな市場として考えられています。魚油と比べ藻類油は、臭いが少ない、藻類バイオマス生産を容易にする安定した構造、コレステロールや汚染物質がないなど、様々なメリットがあります。
微細藻類のオメガ3は、生理食塩水を使い、発酵、バイオマス濾過/遠心分離、バイオマスの乾燥、微細藻類油の抽出、純化の5つの重要な生産プロセスを通して生産されます。微細藻類油抽出時に、藻類の細胞は破壊されます。細胞壁が壊れると、藻類の濃縮物は酸化し、ヒトが消化できない、臭いのある副産物が生成される可能性があります。生産の安定、効率を最大化するために、抽出時に藻類の細胞を安全に破壊し、副産物の生成を低減し、発酵段階での原料(サトウキビの糖蜜など)効率の最大化のため、革新的なテクノロジーが開発される必要があります。錠剤の栄養補助食品において、オメガ3を湿度や汚染物質から分離し保護するために、カプセル化技術は重要です。
オキアミや魚の油から抽出するオメガ3と比較すると、微細藻類由来のオメガ3はよりサステナブルで、魚の増加と収穫量の拡大につながります。商目的の藻類は、安定的で、管理できない要因を抑え、研究所で管理された状態での収穫が可能です。近年の藻類由来の油に関係する技術発展により、養殖において、必要なオメガ3成分を供給するよりサステナブルで安定的な手法の開発が活発になっています。
北米南米、欧州、アジア、豪州に生産工場を有するドイツの化学メーカーのBASF SEは、Cargillと提携し、LatitudeTM Technologyを開発しました。この革新的なテクノロジーは、魚油のかわりに藻類から調達するという業界の動きを示しています。LatitudeTM Technologyは、オメガ3の3つの成分すべて(EPA、DHA、DPA)を豊富に含む藻類油および他の植物の成分をキャノーラ(セイヨウアブラナ)に注入します。この技術は、養殖飼料において、魚油と置き換えるまたはブレンドすることにより、質の高い魚を成長させることができます。藻類を扱う技術は漁業に役立つだけでなく、食品や栄養補助食品にオメガ3を直接注入することにも利用できます。New Zealand Institute of Plant and Food Research Ltd.は、近年開発した、栄養補助食品の錠剤を破壊せず瞬時にその中のオメガ3濃縮物を検出する技術の特許を取得しました。
主要トレンドの解説と各国の事例
APAC地域の藻類市場の成長推進要因には、消費者のオメガ3の健康上のメリットに関する認知向上、より健康でマインドフルな生活への意識の高まり、高品質な幼児向け食品の需要増大などが挙げられます。植物、種子、オキアミなどの原料と比べ、魚由来のオメガ3は最も需要が高いものでした。しかし、海産資源の枯渇や養殖のサステナビリティに対する懸念により、藻類由来のオメガ3の生産が増加しています。APAC地域における可処分所得の増加や生活の質の向上といった一般的なマクロレベルの動向も、市場に影響を与えています。最後に、APAC諸国の特定の動向は、メーカー側で製品開発時に特定の健康上のメリットをターゲットとすることから、卸売業者側で変化し続ける消費者の嗜好に対応することへと、バリューチェーン関係者の意思決定にすでに影響を与え始めています。
インドの事例:幼児の栄養面におけるオメガ3の高い需要
中国、日本、豪州といったAPACの他の多くの国と比較してインドの平均寿命が短い理由の1つに、オメガ3の成分であるEPAおよびDHAの不足が挙げられてきました。このため、インドの保険当局は、一日の基準摂取量を設定し、大人向けの栄養補助食品だけでなく、幼児の栄養に対する認知および需要向上に取り組んできました。オメガ3EPAの幼児の脳の成長に対する健康上のメリットにより、幼児栄養関連の販売増加が見込まれています。これに加え、人口増加、可処分所得の増加といった要因により、インドの幼児栄養市場は、中国に次いで最も急速に成長している市場です。
インドのオメガ3市場の半分以上は魚から抽出されたものであり、次いで大きな調達源が藻類です。海洋生物の枯渇、またベジタリアンおよびヴィーガン人口比率の増加により、藻類のオメガ3は魚油のオメガ3の代替物として、そしてよりサステナブルであることから、急速に注目が拡大しています。幼児栄養関連の製品開発以外にも、インドのオメガ3市場では、ペットフード、動物飼料、栄養補助食品などにも機会が存在します。
日本の事例:高齢者向けのオメガ3
日本では、人口動態の変化により、65歳以上の総人口が25%を超える高齢化社会となったことにより、高齢者における日常のオメガ3の摂取が増加しました。日本のオメガ3(特にDHAおよびEPA)の市場が成長するには、健康、ウェルネス、サステナビリティを強調した、成分の調達品質に透明性のある、消費者に優しい製品の開発が鍵となります。
法政大学や帝京平成大学などの学術機関での研究は、オメガ3のEPAおよびDHAの質および効果の向上に焦点を当ててきました。栄養摂取の健康的な代替手段として栄養補助食品を推進する政府の援助も、日本の消費者の、オメガ3の健康面のメリットへの認知向上に貢献しました。インド同様、藻類油からの調達は幼児栄養分野において増々重要になっています。日本はAPACにおいて、魚油生産をリードする確立した存在ですが、新型コロナのパンデミックの影響により、多くの魚の養殖施設が厳しい状況を余儀なくされ、さらに政府の緊急事態宣言により養殖の生産性が低下しました。日本市場における魚由来のオメガ3の需要は安定していますが、生産量の限界と微細藻類のオメガ3に対する消費者の認知向上により、藻類由来のオメガ3が新たな競合製品として台頭しています。
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清水ディエゴ
プリンシパルコンサルタント/フロスト&サリバン ジャパン
フロスト&サリバンのAPACにおいて、日本ベースの食品・化学分野のコンサルタントとして活動。10年以上のF&B市場での経験を擁し、アジア、ラテンアメリカの市場参入、パートナーシップ、政府規制コンプライアンス、顧客ニーズの分析、イノベーションにおけるアドバイザーとして高い評価を得ている。