昨今、自動車業界では低炭素化の促進に合わせ、研究開発、サプライチェーン管理、製造工程、モビリティサービス、顧客体験など様々な分野においてAI技術の開発と導入が急増している。
自動車業界は音声コントロール、テレマティクス、先進運転支援システム、タッチセンシティブ、個人用プラットフォーム、人間行動の模倣学習や強化学習、様々なAIテクノロジーの実装に取り組んでいる。自然言語処理を搭載した車載アシスタントは、人的介入なしに車両が音声コマンドに応答し、適切なアクションを推測できるようにする。さらに、安全性を高めるためにAIシステムが車両に実装され、ユーザーは誤作動のない運転を楽しむことができる。AI技術実装により、運転の最適化や自動化、省力化に貢献し、脱炭素の促進や自動車業界の更なる進化が期待される。
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71億ドルのAI市場規模
AIは従来の技術課題を克服し、生産性向上と収益増加という観点で、自動車業界にとっては大きなメリットをもたらすと考えられる。
- AIは研究開発から自動車運転まで、バリューチェーンのあらゆる分野で変革を起こす重要な技術要素として期待される。
- AIは大量のデータを分析し過去の経験を学習することで、未来、あるいは異なる条件での結果を予測し、より良い判断ができる事が証明される。
- 自動車業界におけるAI市場規模は、2024年までに71億ドルに達すると予想される。
- 自動車業界では今後100億ドル以上をAIスタートアップや技術開発に投資すると予想される。
AI技術開発動向
研究開発
排出ガス制御、燃料効率の向上、バッテリー性能に関し、AIを活用した解析シミュレーション技術により自動運転テストやコンポーネント設計等の欠陥を素早く見つけることで、研究開発のコストは削減できる。
- GMはAIを活用し、より経済的かつ高スピードで新製品を設計した。 AI技術により150以上のR&D設計プロセスを自動化し、最終製品は従来の設計プロセスと比較し40%軽量かつ20%高強度であることが検証された。
- QuantumBlackはAI技術を導入し、自動車の研究開発プロセスを合理化し、潜在的な設計不具合を特定できた。
- トヨタは、スタンフォード大学やマサチューセッツ工科大学と共同開発で、インテリジェント・カーを開発する予定である。
サプライチェーン
AI技術により、ロジスティクスシステムにおける調達部品は効率的な追跡と分析を可能にし、注文予測および在庫の削減に繋げる。
- Rolls RoyceはGoogleのCloud Machine Learning Engineを利用し、 AI画像認識技術でオブジェクトを効率的に識別し追跡することで、物流システムをより安全かつ効率的に実現した。
- Audiは画像認識を備えたスマートカメラを採用し、車の板金の微細な亀裂を計測する。同システムは、数百万枚の画像を使用し細かい亀裂を効率的に検出することで、従来の作業員に依存した品質検査を自動化にした。
- Renaultは、グローバルサプライチェーンをAIシステムで管理し、物流プロセスのデジタル化を実現した
製造工程
工場および設備のメンテナンスのため、拡張/複合現実(AR/MR)アプリケーションや画像認識により、製造ラインのダウンタイム低減に貢献する。
- GMは、5,000台以上のロボットでAI画像分類ツールを活用し、潜在不具合の発生を検出する。 同社は、AIシステムの利用により、70個の想定外障害によるダウンタイムの発生を検出できた。
- Porscheは、自社のデジタルラボでAIシステムを開発し、製造工程における潜在障害を効率的に検出した。
- Rethink RoboticsはAI協調ロボットを開発し、資材の取扱い、検査の実施などの単調な作業を柔軟に従業員と協力する。
マーケティング・販売
AI技術は顧客に提供できる最適な製品/サービスを予測し、広告配信の最適化を行う。
- 日産は、ユーザーデバイス、言語、OS、リマーケティングリスト、アクセス時間帯などのさまざまな情報に基づいて、インターネット広告の広告枠をリアルタイムで自動的に買い付けるプログラマティックを採用し、広告配信を行っている。
- SKODAもプログラマティック広告を採用し、コンバージョン率を50%以上向上、広告キャンペーンの平均コストの9分の1で広告キャンペーンを配信している。
- VWは、経済、政治、気象データを用いた機械学習(ML)を開発し、120か国で自動車モデルの販売を予測する。
- トヨタはIBM WatsonのMLを使用して、Rav4向けの新広告キャンペーンを設計し、 広告スクリプトを作成した。
運転時
AI技術により、通行人や通行車両等の物体検出・識別・回避、またはスマートセンサーで車内外の緊急事態を検出できる。
モビリティサービス
AIはB2Bサービスにおける車両や運行管理を改善し、荷物を配送する無人自動運転車や配送ロボットを稼働させることができる。
- KIA Motorsは、自動ブレーキ、車線逸脱警報等の安全機能やドライバー支援センサーを備えた車両を提供している。同社はコンピュータービジョンやAmazon Rekognition等の技術を利用し、ドライバーが自分の運転体験をパーソナライズできるようにする。
- トヨタは、音声アシスタントやハイブリッドナビゲーションシステム、車内でさまざまな接続サービスを提供する「データ通信モジュール」を提供している。同社は、AIエージェントYUIを搭載した新しいモデルを開発し、ドライバーと車との間のエンゲージメントを高めることを目的としてパーソナライズされる運転体験を提供する。
- Mercedes-BenzはNVIDIAと「メルセデスベンツユーザーエクスペリエンス」(MBUX)システムを開発し、運転体験をパーソナライズする。 MBUXには、3Dタッチスクリーンディスプレイと音声起動アシスタントを備えたAIインフォテインメントシステムを搭載する。
- BMWは、AI技術やジェスチャーコントロール、視線検出と組み合わせたシステムにより、ドライバーの運転体験を向上させることを企画している。
その他
AI技術は、リアルタイムのアプリケーションパフォーマンス管理(予測/ロードバランシングなど)やサイバーセキュリティ(プロアクティブな脅威ハンティングなど)等にも対応する。
米中が特許競争にリードしている
自動車業界において、AI分野の特許数は過去数年より急増している。これはデジタル化、ソフトウェアの技術開発へのシフト、補助システム、制御システム、ナビゲーションシステムなどの分野の技術開発が急速に拡大しているためと考えられる。
米国は、2016年から2019年の間に2万6000本以上の特許を出願し、世界最高となっている。 主に音声認識のデジタルアシスタント、チャットボットなどのNLP(自然言語処理)ソリューションの開発、パーソナライズされるサービス等の特許出願が多い。一方、中国は2万4000本以上特許を出願し、米国を急速に追い上げている。2030年までにAI分野では米中の競争が更に激しくなると思われる。
AIは脱炭素や自動車の進化を加速させる
AI技術を工場の生産ラインに導入することで、OEE(Overall Equipment Effectiveness, 設備総合効率)解析を行い、非効率的な生産領域を検出できる。より透明性が高く効果的な対策を打ち出すことで、生産性の向上によるコスト削減や脱炭素化につながると考える。また、AIは従来のシステムアーキテクチャ、ソフトウェアプラットフォーム、ADAS(Advanced Driver-Assistance Systems, 先進運転支援システム)より、スマートな運転体験を実現でき、大量のデータを効果的に管理及び分散処理することで、コネクテッドカーの開発にも役立つと考える。
自動車業界は研究開発、サプライチェーン、製造工程、マーケティング・販売、モビリティサービスなどの分野でAI技術の導入や投資をすることで、自社の成長機会や技術進化に繋げられると考える。
【レポート(英語)の詳細】:
Into the Fast Lane with AI: Driving the Future of Mobility
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【日本語要旨】:
洪 偉豪(コウ イゴウ)
成長戦略マネージャー/テックビジョン(新興技術)
広範囲なセクターでの経験を有し、様々な業界の経営陣と長期的な関係を築いている。
以下の業界にて10年以上の経験を持つ:
電力&ユーティリティ/ICTテクノロジー/バッテリー
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