「テクノロジーコンバージェンス」は異なる領域にある複数の技術やサービスが融合・統合していくことを指す。自社技術と世の中で注目されている新興技術との組み合わせにより、まだ確立されていない市場や満足していない顧客ニーズに対処し、新たなビジネスモデル、ソリューション、革新的な製品を創出することができ、自社の成長や新事業創出に繋げられると考る。近年、多数の先端技術の融合や統合により、次世代製造工程プラットフォームやリアルタイム検出モニター、デジタル・イモータリティ等の新規事業が創出される。

 

 

事例1: 次世代製造工程プラットフォーム

 

次世代製造工程プラットフォームの開発に向け、複数の先端技術を採用し、テクノロジーコンバージェンスにより実現させる。テクノロジーコンバージェンスのシナリオとしては、ホログラフィック3Dプリント技術、センサーフュージョン、ディープニューラルネットワーク(DNN)、ニューロモーフィック処理、コボット、AIスマートセンサーの組み合わせにより、スマートな製造プラットフォームが創出される。

各テクノロジーは、高効率を実現する上で非常に重要な役割を果たしている。例えば、センサーネットワークは、機械加工精度の監視、周囲環境の確認、完成品欠陥の発見など、製造工程の各パラメーターを測定ことが可能である。また、ニューロモーフィック処理が可能なコンピューティングチップに組み込まれたDNNアルゴリズムを用い、素早くデータは処理され、最適な作業判断が行われる。AI技術を搭載したコボットは、資材の仕分けなどのさまざまな作業を行い、図面データをホログラフィック3Dプリンターで高速印刷することで、現場従業員が介入する必要性は減少し、製造設備の効率が向上すると考える。

 

 

次世代製造工程プラットフォームの各主要技術

 

ホログラフィック3Dプリンティング

ホログラフィック3Dプリンティングは、三次元の光照射により立体物全体を一気に造形することで、非常に高速で高画質立体像を出力できる。同技術は精度と速度を求めるコンポーネントの設計に役立つため、自動車や航空宇宙などの業界は既存の製造ラインへの導入に向け、多額の投資を行っている。

センサーフュージョン

センサーフュージョンは、信号の補完や平均化を行うことで異なるセンサを協調させ、包括的に情報を提供する。同技術は、機械診断、資産管理、稼働監視、品質管理に有効であると考えられる。

AIセンサー

AIセンサーは、センサー内で高速なエッジAI処理を可能にし、データのリアルタイム処理により、消費電力や通信コストの削減、転送遅延時間の低減を実現する。そこで、現場の製造ラインでの分析を行うことで、タイムリーな意思決定が可能になる。

ニューロモーフィック処理

ニューロモーフィック処理は、人間の脳のネットワークと同様の一連のネットワークを備え、人間のような応答をもつ処理システムであり、人間と同様に考え行動することを実現する。ニューロモーフィック処理により、自律型工場やインダストリー4.0、スマートファクトリーに向け、次世代製造工程を実現するのに重要な技術として期待されている。

ディープニューラルネットワーク(DNN)

ディープニューラルネットワークまたは深層学習は、入力と出力の間に多層のニューラルネットワークを仕組みとした機械学習手法である。同手法は、意思決定に複数の変数の計算が含まれ、入力データが構造化されていない複雑なユースケースの処理が可能である。同技術の活用により、従来目視で行われた作業をAI自動化に切り替えることで不良品の発見精度は向上し、ヒューマンエラーが起こらないよう、製造工程に導入されている。

コボット

協調型ロボット(コボット)は、資材の取扱い、検査の実施、梱包などの単調な作業を柔軟に従業員と協力し、また機械加工、機械の手入れなどのさまざまな用途の製造現場で活用される。

 

事例2: リアルタイム検出モニター

 

コロナ禍の影響を受け、即時に体温や感染者を検出するソリューションが注目される。検出モニターは、5G、ディープニューラルネットワーク、デジタルバイオマーカー、ビングマップを活用し、リアルタイムに感染者を検出し、感染拡大の抑制に貢献する。

デジタルバイオマーカーとディープニューラルネットワーク技術は、世界各地から感染者の特定に役立ち、陽性と判定された人をリアルタイムにモニタリングし、リビングマップを使用して追跡することが可能である。医療部門は該当情報を活用し、感染者の追跡や感染予測ができるため、必要な対策や警告を判断しリアルタイムに方策を講じられる。

 

 

リアルタイム検出モニターの主要技術

 

5Gネットワーク

既存周波数帯などのカバレッジの広いマクロセルで制御情報を提供し、また広帯域が確保しやすいミリ波などの周波数帯で超高速通信が提供可能なマイクロセルにより、5Gネットワークが構築されている。大量のデバイスが接続されることにより、多くのデータと複雑な計算を処理することが期待され、「超高速」、「多数接続」、「超低遅延」等の機能を持つ通信システムは、多数のセンサー、高精細映像の伝送の活用が期待される。

ディープニューラルネットワーク

ディープニューラルネットワークは従来の機械学習と違い、特長量を自動で抽出できるため、人間が気付かなかったような特徴を探し出し、状況に応じた柔軟な判断が可能になる。また、大量のデータを解釈する能力があり、正確な判断や警報を行うことができ、感染拡大の防止に大きな影響を与える。

デジタルバイオマーカー

センシング技術の進化により、発症予測や状態把握・管理に利用するためのウェアラブルやインプラントで取得する生理学的データというデジタルバイオマーカーの進化が加速している。同技術は、患者が情報を入力・発信するタイプを含め、従来数値化が困難であった指標を客観的に数値化することで、症状の検出と見守り役として期待されている。

リビングマップ

ディープマッピングまたはリビングマップとは、2次元画像よりも情報量の多いマップを指す。従来のマップとは異なり、ディープマップはさまざまな情報を掲載可能なメディアとして(場所、名前、画像、地形等)構成される。即時に感染情報をマッピングすることで、感染拡大の抑制を防ぐことができる。

 

事例3: デジタル・イモータリティ

 

デジタル・イモータリティとは、デジタル形式で人の個性・記憶を保存し、死後の人間をデジタル化、またはアバターに複製することで自律的に学習し発達し続けることである。デジタル・イモータリティは、ニューロモーフィック処理、加速ストレージ、人工人間、ウェーブガイドなどのテクノロジーの組み合わせにより実現する。同技術は、人間の記憶、知識、行動、性格等のデジタルデータをもとに、ニューロモーフィック処理と加速ストレージを活用し、人工人間に基づくシステムとウェーブガイドにより、現実的な姿で表現される。

 

 

デジタル・イモータリティの主要技術

 

ニューロモーフィック処理

ニューロモーフィックコンピュータは、脳の神経細胞であるニューロンを模倣した電子回路で、電気的なバルスによって情報は伝達される。同技術の実装により、機械はより人間の脳に相当する総合的な知的処理能力を実現することが可能である。

高速ストレージ

高速データストレージシステムは、フラッシュによる高速化、容易に拡張可能なストレージ等の特徴を持つ。データストレージの高速化により、ビデオ、写真、オーディオ形式で保存された個人データベース、またはソーシャルネットワークから取得した大量のデータは保存でき、また検索帯域幅が改善されるためシンプルな管理方法として利用されている。

人工人間

人工人間またはデジタルアバターは、人工知能によって駆動され、本物の人間のような外観や振る舞いを持ち、AI技術で生み出された仮想的な存在である。アバターにはAIアルゴリズムが組み込まれ、現実性、リアルタイム、レスポンスを大切にし、人間と接しているような感覚で作り上げられている。人工人間は死後の人間にとっては生きた保管場所として期待される。

ウェーブガイド

ウェーブガイドは、網膜に画像を直接投影することで、ユーザーにプライバシーを確保しながらクリアな画像を提供できる。また、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems, 微小電気機械システム)ミラーや光学部品、センサーと統合し、直射日光の下でも鮮明でクリアな画像を表示できる。同技術の活用により、現実世界に人工人間を投影、大容量通信や信号劣化が少なく、寿命が長いという特徴で死後の人間は現実的な姿で現れる。

 

テクノロジーコンバージェンスは避けて通れない道

 

新興技術は従来のビジネスモデル、製品をさらに進化させ、従来にないスピードとインパクトで人々の生活を変化させている。企業はビジネス環境の激しい変化に対応するため、新興技術を活用し、自社サービスや製品、ビジネスモデルを変革させるとともに競争優位性を確立できると考える。

新興技術の取り入れ、自社技術と異なる専門分野の知識・技術の組み合わせにより、テクノロジーコンバージェンスによる既存の産業構造やビジネスモデルを大幅に変革させる時代が来ている。AIは現実社会の情報やデータを分析・学習することで、新たな価値を生み出したり、各種ロボットによる多様かつ複雑な作業を自動化する。これまで実現不可能と思われた製品やサービスの実現は、自社の新規事業や次の成長事業の構築に繋げられると考える。

 

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