近年、ファストフード店やレストランが提供する料理をオンラインで注文し、自宅やオフィス等へ配達してもらう「オンライン食品デリバリーサービス」が広がりを見せている。グローバルでは、2018年の約820億ドルから2025年にはその倍以上の約2000億ドルに市場規模が拡大する見込みである(当社調べ)。そこで急拡大する市場と、そのような食品デリバリー市場で求められるモビリティとは何なのかを探ってゆく。
まず、グローバルの食品デリバリー市場は、売上の大部分をアジア地域が占めており、その中でも8割近くを中国が占めている。アジアに次いでは北米、欧州が並んでおり、いずれの地域も2025年までに年率10%以上の成長が見込まれている。今後、市場が拡大に伴い、効率的な食品の配達が求められるようになる。
食品デリバリーに求められるモビリティについては、配達1件当たりの重量及び容積は、通常の貨物と比べはるかに小さいので、貨物自動車よりも小型の輸送手段が向いている。有人配達の場合、都市部であれば小回りが利き、道幅や車高などの制約の少ない車両が適している。例えば、電動キックボードなどのマイクロモビリティはバッテリーの交換も容易であり、スピーディな食品配達を可能にする。一方で都市部に比べて輸送距離が比較的長距離になる郊外の場合は、十分な走行速度や航続距離を有した車両が望ましいと考えられる。
また、配達員を必要としない自動運転車両を利用したデリバリーも考案されている。小型の自動運転車両を利用して食品を配達するサービスを米国にて展開中のNUROが開発しているデリバリー用車両は、食品を顧客の近くまで輸送し、事前に通達した暗証番号を利用者が車両から注文した品物を取り出すという仕組みになっている。また調理した食品を配達するのではなく、配達中に調理するという考え方も登場している。ピザ配達の大手であるピザハットはトヨタ自動車が提供する専用車両にロボットを搭載し、自動で調理した食品を顧客に届けるサービスを開発中である。さらに、ドローンを利用した食品デリバリーサービスも提案されている。少量の食品であれば地上を走行する配達車両よりもはるかに高速な配達が期待され、ウーバーもドローンを利用した無人食品配達サービスを計画している。
さらにデリバリーサービスの運用形態を見てみると、食品デリバリーサービスのための配達用車両は、基本的に食品の提供元、配達業者、もしくは個人が保有するものに分けられる。食品の提供元が車両を運用する場合は、食品に合った温度管理や運行管理ができるが、初期投資が膨大になるため、配送業者に委託するという形態が現実的である。また個人所有の車両による配達は需要の増減に対して柔軟に対応することができるため、配送業者にとっても都合がよい。
オンライン決済をはじめとしたデジタル技術により、食品デリバリーサービスは今まで以上に利用しやすくなりつつある。既に様々な種類の車両が食品デリバリーに使われているが、今後、市場の拡大に伴い食品デリバリー専用車両の開発が進み、食品の種類や配達地域、配達時間などの条件により最適なモビリティが使われることになるであろう。