2025年11月4日、フロスト&サリバンはジャパンモビリリティ―ショー2025のプレスデーを取材し、速報としてレポートを公開した。
日系自動車メーカー、海外メーカー、そしてサプライヤーによる革新を通じて、次世代モビリティ革命を牽引する「つながる未来」に向けた市場動向とイノベーションを探る。
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2023年以来2年ぶりに、2025年ジャパンモビリティショーが開幕した。日本の完成車メーカー各社から多彩なニュースが発表される中、BYDによる日本市場向け軽自動車の初公開、シャープのEV市場参入(LDK+)、12年ぶりに出展した現代自動車の電気自動車および水素自動車(The all-new NEXO)、そして今回初めてジャパンモビリティショーに参加した起亜自動車など、開幕前から大きな話題を集めている。
海外のモーターショーのように、多くのグローバル完成車メーカーが一堂に会し、華やかなイベントとなるケースとは異なり、日本のモビリティショーは国内メーカーを中心に、限られた数のインターナショナルブランドが参加する点が特徴的である。
むしろ、出展社数が少ないからこそ、参加するグローバルブランドの存在感が一層際立つといえるだろう。
本レポートではショーの詳細に入る前に、日本自動車市場の現状を簡単に振り返り、日本市場特有の特徴を理解するとともに、今回のイベントが持つ意義について考察したい。
尚、ジャパンモビリティショー2025の参加企業概要は以下の通りである。
出展企業・団体数
- 総参加数:517社(JMS 2023比 +8.8%、475社→517社)
- 海外出展者数:42社(JMS 2023比 +82.6%、19社→42社)
- 主な国際ブランド:BMW、BYD、Hyundai、Kia、MINI、Mercedes-Benz
<1> 日本の自動車市場動向
日本は、トヨタ、ホンダ、日産、スズキ、マツダ、三菱、スバル、ダイハツといった自動車メーカーを筆頭に、自動車販売台数で世界第4位、生産台数で第3位の地位を維持している。
日本市場における国内メーカーのシェアは90%以上に達しており、海外メーカーにとって参入および事業拡大は依然として容易ではない。
しかし近年の動向を見ると、輸入車販売は着実に増加傾向にある。2024年の輸入車販売比率が7.3%だったのに対し、2025年1〜9月の累計データではすでに7.6%を記録しており、年末を待たずして前年を上回るペースとなっている。(グラフ1参照)
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(出典: JADA, JAIA, Frost & Sullivan Analysis)
さらに、国内メーカーが依然として本格的なEVシフトを進めていない中、輸入車(乗用車基準)の販売拡大が国内EV比率の上昇を牽引している。2025年のデータを分析すると、国内における電気自動車(乗用車基準)の販売のうち、輸入車が占める割合は非常に高く、9月単月では全EV販売台数の90%以上が輸入車であったことが確認されている。(グラフ2参照)
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(出典: JADA, JAIA, Frost & Sullivan Analysis)
日本の自動車メーカーは長らく電動車への全面移行よりもハイブリッド車に注力してきた。その結果、卓越したハイブリッド技術を武器に市場をリードしており、その圧倒的なシェアは下記のグラフでも明らかである。「ハイブリッド王国」とも称されるほど、ハイブリッド車(乗用車基準)の市場占有率は他を大きく引き離し、その後にガソリン、ディーゼル、PHV、BEV、FCVが続いている。(グラフ3参照)
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(出典: JADA, JAIA, Frost & Sullivan Analysis)
<2> 日本国内ブランド
トヨタ、レクサス、センチュリー、ダイハツ、ホンダ、日産、三菱、マツダ、スバル、日野、いすゞなど、日本を代表する自動車ブランドが一堂に会し、今年のジャパンモビリティショーに勢揃いした。本イベントのコンセプトが示す通り、各社のプレスプレゼンテーションでは「過去・現在・未来」という時間軸を通じて、企業の根幹にある価値観や理念が紹介された。
トヨタは「TO YOU TOYOTA」をテーマに、人・社会・未来を中心としたビジョンを提示。クルマ好きだけでなく、これまで自動車にあまり関心のなかった人々にも響く“新しいモビリティ文化”を創出するという意欲をステージ全体で表現した。
展示のハイライトとしては、日常生活をより便利にするモビリティソリューションや、子ども向けモビリティコンセプト、そして佐藤恒治社長が披露した注目のカローラ・コンセプトモデルが挙げられる。
トヨタグループ各ブランドであるレクサス、センチュリー、ダイハツと共にそれぞれ専用ステージを設け、グループ全体としてショーの幕開けを飾った。
特に次世代カローラは、トヨタの掲げる「FOR ALL」という理念を体現し、多様なパワートレインを採用する方向性を明確に示している。
日産は、イヴァン・エスピノーサ社長が登壇し、新型エルグランドを発表。
「Re:Nissan」構想のもとで進める再生への強い意志を示しつつ、日産の過去と現在を結び、未来へとつながるメッセージを打ち出した。
本田技研工業は、三部敏宏社長のリードによるプレスカンファレンスで、Super-ONE Prototype、Honda Micro EV、e-MTB Prototypeなど、多彩なプロトタイプを披露。
モビリティの新たな可能性を切り開く革新的なアプローチを印象づけた。
スズキは、日常の通勤や買い物、週末の小旅行までをサポートする小型EV「Vision e-Sky」を出展。ユーザーのライフスタイルに寄り添うEVを目指したコンセプトモデルであり、2026年中の量産開始を目標としている。
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<3> 海外自動車メーカー
2025年ジャパンモビリティショーに参加した6社の海外OEMの中でも、BYDのプレゼンテーションはプレスデーにおいて最も注目を集めた。セッションは、BYDジャパンの劉学亮社長による挨拶から始まり、乗用車から商用車まで日本市場での展開の歩みと、今後のビジョンが紹介された。
BYDは、2025年1月から9月までの累計で世界EV販売台数160万5,903台という際立った成果を発表。
さらに、日本市場向けにDM-iパワートレインを搭載した「Sealion 6」を披露した。また、日本の軽自動車(K-car)セグメント向けに特別設計・製造された電気自動車「Racco」も公開し、大きな話題を呼んだ。
一方、ヒョンデ(Hyundai Motor)は12年ぶりに日本のモビリティイベントに復帰。
同社の主力EV「IONIQ 5」と新型燃料電池車(FCEV)「All-new NEXO」を出展した。
日本国内での販売台数はテスラやBYDなどの先行メーカーと比べればまだ限定的ではあるものの、ターゲットを絞ったマーケティングと消費者重視の戦略によって着実に存在感を高めている。
2025年1月から9月までの累計販売台数は759台に達し、すでに前年(618台)を上回る成果を記録した。
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<4> 次世代モビリティ革命を牽引するサプライヤー:EV、脱レアアース、そしてSDV
シャープは今回、EVコンセプトモデルの出展を通じて新たな市場参入計画を発表し、大きな注目を集めた。
同社が2024年の「SHARP Tech-Day ’24 “ Innovation Showcase”」で初披露した「LDK+」が、さらに進化した形でデビューを果たした。
「クルマは走行している時間よりも駐車している時間のほうが圧倒的に長い」という発想をもとに、「Park at your home」という概念から、「Part of your home」へと進化させ、日常生活とのシームレスな融合を目指したコンセプトである。
アステモ(Astemo)は、同社初となるレアアースフリーモーターを発表。主駆動用にはフェライト磁石を、補助駆動用には同期リラクタンスモーターを組み合わせる。
そのほかに、環境負荷低減と乗り心地の向上を両立するインホイールモーターや、小型二輪車向けのコンパクトeアクスルなど、次世代モビリティソリューションも紹介した。
もう一つの注目企業は、自動運転技術に特化した日本のディープテック・スタートアップTier IVである。
同社は、世界初のオープンソース自動運転ソフトウェ「Autoware」の開発企業として知られている。
近年注目が高まるSoftware-Defined Vehicle(SDV)の分野において、その存在感はますます大きくなっている。
興味深いことに、Tier IVは自社ブースを設けず、3つのパートナーと連携をし、共同展示という形で参加した。
そのソフトウェア技術は形として目に見えるものではないが、この展示手法は、同社の技術がすでに私たちの日常生活に深く浸透していることを象徴的に示している。
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<5> 協調と共存が織りなすテクノロジーとイノベーション
まさに「イノベーションの洪水」と呼ぶにふさわしい光景である。技術の進歩には常に前提がある。
それは、人間の好奇心と、未解決の課題に挑む努力である。その努力の結果として生まれる解決策が、もし私たちの生活をより快適に、安全に、そして豊かにするものであれば、それこそが技術進化の理想的な姿といえるのではないだろうか。
かつて「移動の手段」として誕生した自動車は、単なるモビリティから資産へ、そして今やライフスタイルを彩るスタイリッシュなデバイスへと進化を遂げた。
その成長の過程では、企業や業界の枠を越え、「安全」と「環境配慮」という共通の目的のもとに一体感が生まれている。
EVと内燃機関(ICE)の需給バランスをめぐる課題は今後も継続するだろう。
しかし同時に、各国および企業によるESGへの取り組みは着実に進展しており、今回のショーで披露された多くの企業のイノベーションや、彼らが示した協調と共存の精神が、今後どのように日本の消費者を満足させていくのか注目される。
関税や地政学的変動といった予測不能な要素が交錯する中で、日本の自動車メーカーは海外生産の拡大や逆輸入などのグローバル戦略を模索している。
一方、海外メーカーも日本市場の扉を叩き続け、ブランド認知の向上とシェア拡大を目指している。
グローバルビジネスの観点から見ると、こうした多様な成長機会の追求と成功戦略の実行は、今後の不確実な市場においても注視すべき重要なケース・スタディである。
クロスオーバー的視点から自動車業界を捉えることが、次なる時代の理解に欠かせない鍵となるだろう。
ジャパンモビリティショー(JMS)2025は、2025年10月30日から11月9日まで、東京ビッグサイトにて開催される。
モビリティ―部門コンサルタント カン・ジフン
