2018年6月30日掲載
フロスト&サリバン モビリティ部門主席コンサルタント
森本尚
EV市場は、リチウムイオン電池価格の引き下げや中国を始めとする積極的な政府導入目標などにより、世界的に急速な成長が見込まれています。弊社の見通しでは、グローバルにおけるEV販売台数は今年末までに160万台に到達する見込みで、中国がその49.5%のシェアを占め、欧州が25.6%と続く見通しです。EVは世界の乗用車販売台数シェアのうち、2017年末には0.2%に過ぎませんでしたが、2025年までにEV販売台数は世界全体で2,500万台、乗用車販売台数全体の22.4%を占めるに至ると予測しています。この成長により、2020年までに、EV価格は政府等のインセンティブを受ける必要性がなくなり、従来内燃機関車と同等の価格レンジに収まると見ています。
EV市場普及のためには、自動車メーカーは、①一度の充電で350km以上走行可能な長航続距離、②EVカーシェアビジネス確立した中小企業の買収、③1kWhあたり100米ドルを達成するバッテリーの実現と調達、④魅力的な市場であるSUVの複数セグメントをまたぐ市場戦略の実施、⑤CaaS(サービスとしての自動車)や関連するスマートコネクテッド型サービスへの投資、といった側面に取り組む必要があるでしょう。また、高い小売価格と低い再販価値をどう払拭していくか、についても所有を前提としたビジネスモデルにおいては大きな課題です。
EV普及促進要因の一つと言えるコネクテッドカー(常時インターネットに接続可能な自動車)は、2025年には世界で2億台以上が走行すると見られ、自動車メーカーは優れた顧客体験を提供できるサービスやプラットフォームを通じて、ビジネス優位性の確立を急いでいます。有力メーカーの多くは、AI(人工知能)、デジタルコクピット、データ活用ソリューションを採用したパーソナルサービスを展開しつつありますが、決定的なキラーソリューションの模索を続けている状態です。しかし、いずれにしても2021年までには、コネクテッドカーのデータ流通が著しく増加することは間違いないと見られ、自動車メーカーやデータアグリゲータは、スマートフォンやPCアプリの多くが採用する購読型課金モデルから、変動型価格モデルや収益分配型モデルへと移行するでしょう。高付加価値データ需要の高まりに伴い、複数サービスを一括で提供するDaaS(サービスとしてのデータ)ビジネスモデルの採用も進むでしょう。
今後のコネクテッドカーサービスをささえていくイノベーションは自動車メーカーにとって今後も最重要事項となるでしょう。主な次世代ソリューションには、以下のようなものが挙げられます。メルセデスの新インフォテイメントサービス(MBUX):スマートスピーカーに似た各種操作や3D案内ナビ)、ボッシュのパーソナルアシスタント:車載型パーソナルアシスタントは、30の異なる言語による自然対話型支援システム、GMの新EVアーキテクチャ+インフォテイメントシステム: OTA(無線)アップデートにより強化された将来EV用デバイス、アマゾンのAlexa:BMW、Miniは同ブランドの全モデルに搭載、ルノーのSYMBIOZ:EVと住宅の共生を念頭に置いた、自動運転を視野に入れた全く新しいモビリティコンセプト、などです。他の主要メーカーからも様々な提案がなされていますが、自動車の持つ価値観や社会における存在意義が改めて問われる時代に突入していることは間違いないでしょう。
※本コラムは2018年6月30日付けの日刊自動車新聞に掲載されたものです。