2018年3月2日掲載
フロスト&サリバン モビリティ部門主席コンサルタント
森本尚
電動化や自動運転技術に連なるテクノロジーの進化は、近い将来にモビリティビジネスを大きく変革させることが非常に現実的なものとなりつつある。かつて、自動運転車が単なる空想に過ぎなかったように、SF映画やアニメの世界の出来事に過ぎないと見られている「フライング・カー(空飛ぶ自動車)」も、形や大きさは様々だが、将来テクノロジーによって実現する可能性のある次世代モビリティの一種と言える。今後5年間のうちに、世界で少なくとも10社程度がフライング・カーの販売を開始すると見られ、将来モビリティサービスを変革する一つのソリューションとなるだろう。
フライング・カーはドローンと異なり、実際に人や重量物を運搬することが出来る飛行体を指す。この未来型モビリティは、市場自体は非常に初期段階にあるものの、2017年の時点で既に複数企業が製品開発に着手しており、試験飛行も実施されている。例えば、ドイツのスタートアップ企業Volocopter社は、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで2017年にフライング・カーをタクシーとして利用することを目指した試験飛行を実施している。2018年には同サービスの運用開始も予定され、さらに多くの進展が期待されている。
この未来型モビリティの誕生は、交通手段やサービスモデルを大きく変化させるだけでなく、これまでの自動車産業や、現在形成されつつある自動運転とも異なるサプライチェーンが形成されると予想される。米グーグル創業者のスタートアップや、米ウーバーといったテクノロジー・スタートアップ企業、エアバスを始めとした航空産業など、他業種からの市場参入も多く、観光、監視サービス、緊急時の援助物資配達、従量制課金タクシー、企業向けリースサービスといった、陸上走行で果たすことのできない側面をターゲットにした新たなモビリティサービスの誕生が期待される。この様な他業種からの市場参入により、従来自動車メーカーや部品メーカーによって構成された自動車産業構造はさらに再構築され、将来は他業種から参入する企業が市場リーダーとなる時代に突入する可能性も十分予想される。
技術的には多くの進展が期待される一方で、フライング・カー市場の成長には課題も多く存在する。都市部での離着陸問題や、人的エラーの発生、安全性やセキュリティに対する懸念、燃費効率性、飛行距離、騒音、航空交通に関わる規制など、数多くの社会的課題をクリアする必要がある。フライング・カー企業は、VTOL(垂直離着陸)技術などの研究開発などを軸として、各種テクノロジー企業、自動車メーカーや航空産業関連企業と連携することで、自社技術をさらに高めることが出来るだろう。
フロスト&サリバンの予測では、フライング・カーの実用化は2025年頃になると見ている。実用化のためには、将来ユーザーの受容性や信頼性獲得が重要であり、VTOL技術や自動飛行技術、航空機等で既に実績を多く持つ故障時の安全バックアップ装置の小型化や実装が、きちんと実証されていくことが求められる。同時に、この市場に参入するメーカーやサービス企業は、航空局等の規制当局と、飛行に関する規制枠組みについて、新たな組織体によって、合意形成を図っていくことが非常に重要な活動となるだろう。
※本コラムは2018年2月19日付けの日刊自動車新聞に掲載されたものです。