2018年1月24日掲載
フロスト&サリバン モビリティ部門主席コンサルタント
森本尚
最新テクノロジーを取り入れたコネクテッドカーや自動運転の進化が進む中で、ゲームの要素をサービスやシステムに応用する「ゲーミフィケーション」を取り入れた自動車の開発が新たに注目を集めている。スマートフォンの普及や最新テクノロジーに精通した消費者層の拡大、デジタル化の進化とそれに伴うサービスのカスタマイズ化にくわえて、AI(人工知能)や機械学習、生体認証といった技術の進化は、ゲーミフィケーション技術の自動車への応用を十分に可能にする土壌となっている。
ゲーミフィケーションとは、遊びや競争など、人を楽しませて熱中させるゲームの思考プロセスやメカニズムを、ゲームが本来の目的ではないサービスやシステムに応用し、ユーザーのモチベーションやロイヤリティの向上を図る仕組みである。直接的には、ゲーミフィケーションをサービスに取り入れることで、ユーザーがコンテンツに費やす時間を増やし、サービスとユーザーとの関与をより強化することが可能となり、間接的な結果として、自動車そのものやサービスの売上拡大や、顧客の満足度向上につなげることが出来る。
フロスト&サリバンの予測では、ゲーミフィケーションの世界市場は2016年から2025年に向けて年平均で成長率+18%と大きく成長し、同市場規模は2025年には1兆6240億円規模に到達する見通しである。ゲーミフィケーションのビジネスへの採用は、北米および欧州がリードすると見られるが、自動車を含む多様な業種、とりわけ意志決定プロセスなどへの応用においても幅広く採用されている。一方でアジア地域では、ゲーミフィケーション技術は主にソーシャルメディアとの連携において利用されている。
自動車に搭載されるゲーミフィケーション技術には、具定例で言えば、エコカーでよく見られるエコ運転スコアや、安全運転度評価などがある。単なる評価だけにとどまらず、より効果的な安全運転を達成したドライバーには報奨金を付与したりする輸送会社なども出現し始めており、今後は高度自動運転との連携についても、ドライバーの負荷軽減後の時間の使い方や、運転操作判断そのものへの活用など、今後の可能性は拡がる。
自動車完成車メーカーやティア1サプライヤ、モビリティサービスベンダー、テクノロジー企業は、生体認証、AI、機械学習といった先進技術開発に協同して取り組んでおり、主要完成車メーカーの中には、新しい構想に具体的に着手している企業もある。例えば、BMWはコネクテッドカーとアマゾン・プライム・ナウを連携させる構想を発表している。これは、次の目的地に到着するまでの間に注文した商品が、到着後すぐに受け取れるサービスや、選択されたルートから所要時間を把握し、自動運転に切り替わることでアマゾン・プライム・ビデオを車内にて視聴することができるというものである。
ゲーミフィケーション技術の自動車への採用は、単なるユーザーとサービスの関わりを高めるだけものに留まらない。自動車完成車メーカーや自動車ディーラーや関連企業などは、ゲーミフィケーション技術を自動車のライフサイクル全体で取り入れることで、次世代サービスの実現が可能となるだろう。
※本コラムは、2017年12月18日付けの日刊自動車新聞に掲載されたものです。