2018年5月14日掲載
フロスト&サリバン モビリティ部門主席コンサルタント
森本尚
IoTの普及に伴い、あらゆるモノがインターネットを介してつながるコネクティビティ技術は、物流システムにも大きな変革をもたらしつつある。クラウドコンピューティングやビッグデータ、クラウドソーシングといった新たなデータ関連サービスの誕生に加えて、多くのスタートアップの台頭は、物流のバリューチェーンや荷物の配送モデル全体を大きく覆す可能性がある。
物流コスト全体のうち約40%が、ラストワンマイルと呼ばれる末端の配送センターからエンドユーザーや顧客への物流サービスに関連したコストであると見られ、物流業者にとって、都市部での配送効率化によるコスト削減は目下の課題となっている。フロスト&サリバンの分析では、物流に対する総支出は、2016年には世界全体で8兆600億米ドルに上ったと推定しており、2020年には10兆6000億米ドル規模に到達すると見ている。そのうち運輸に対する支出が全体の70%(7兆4200億米ドル、2020年)を占める見通しである。
物流市場においてデジタルテクノロジーを活用したソリューションの導入が今後急速に進み、現状の物流サービスの課題に対する解決策となることが期待される。物流サービスは、モバイルプラットフォームを利用したeコマース型やオンデマンド型の配送サービス、ドローンやロボットを利用した自動運転での無人配送サービスの普及が拡がりを見せると予想される。これらの新しい配送ソリューションは、最もコストがかかっているラストワンマイル配送を中心に、配送モデルの簡素化やそのあり方を変革していくだろう。
ラストワンマイルの配送コストの上昇や、絶えず変化する顧客のニーズに伴い、クリック&コレクト(オンラインで商品を注文し、実店舗などの専用拠点で商品を受け取る形態)、物流専用ロッカー、オンデマンド型配送サービス、自動運転配送サービスといった新たなビジネスモデルや戦略の策定や実現が今後物流業者の差別化や成功に求められるだろう。さらに、テクノロジーを駆使したサービス展開を行うスタートアップの物流市場への参入は、荷主や運送事業者の取り扱う商品やサービス特性に応じた専用配送システムの構築や付加価値をもたらすだけでなく、現状の物流サービスにおける非効率性への解決策としても期待は大きい。例えば、「貨物ブローカー」と呼ばれる、荷主と運送事業者との間で輸送仲介を提供するデジタルプラットフォームは、最寄りの空車トラックと荷主とをマッチングするサービスを提供し、運送事業者に対しては空車率(デッドマイル)の削減、荷主に対しては通常の貨物仲介よりも25%程度安い仲介手数料を提供、というメリットを提供している。さらには、このサービスの普及により、遠隔地など配送サービスが十分に行き届いていないエリアを8~10%程度減らすことが可能となると見られている。
輸送効率の改善や配送能力の拡大と合わせて、排気ガスや二酸化炭素(CO2)排出の削減、事故等のゼロ化といった課題も、将来物流業界においては重要な課題である。自動運転技術やドローンの活用によって、配送サービスや利益向上、遠隔地利便性の向上、環境改善は相反する課題ではなく、同時解決が図れる課題になりつつある。
※本コラムは2018年5月14日付けの日刊自動車新聞に掲載されたものです。