2018年9月3日掲載

 

「最後のフロンティア」として注目を集めるアフリカ自動車市場では、日産やトヨタなどの日系自動車メーカーも進出し、今後の動向に注目が高まっています。その一方で、国ごとに状況や特性が大きく異なり、今後の見通しが難しい市場であるのも事実です。

 

南アフリカを拠点にフロスト&サリバンのモビリティ部門でシニアコンサルタントをつとめるライアン・バックスが、アフリカ自動車市場の概況と展望について説明します。

ryanbax_180903.jpg回答者:ライアン・バックス/Ryan Bax
フロスト&サリバン 南アフリカオフィス モビリティ部門シニアコンサルタント
Q)アフリカではどの国が有望な自動車市場なのでしょうか?
A) アフリカの自動車市場は、元来地域ごとに著しく状況が異なり、アフリカ最大自動車市場である南アフリカから、人口が20万人程度のサントメ・プリンシペまで多岐にわたります。アフリカ大陸の主要自動車市場には、南アフリカ、エジプト、アルジェリア、モロッコ、ケニア、ナイジェリアの6カ国が含まれます。これらは有望な市場として注目が次第に高まる一方で、新車販売台数は依然として小規模に留まっています。その背景として、アフリカ経済の過去2~3年にわたる停滞があり、新興経済国における経済の停滞や弱い通貨のほか、石油価格の低迷が産油国の経済に影響が出ています。

 

Q)アフリカの主要な自動車市場の概況と今後の見通しについて教えてください。まず、最大規模である南アフリカの自動車市場はどの様な状況なのでしょうか?
A)南アフリカの新車販売台数は、2017年に55万7,586台を記録し、過去4年間で初めてプラス成長を遂げました。南アフリカ経済は、弱体化したガバナンスや汚職、新興経済国の低迷に伴い、停滞が続いています。南アフリカ前大統領の失脚による影響は今のところ見られていませんが、堅調な市場の成長が見られるまでには時間を要するでしょう。

 

Q)エジプトの自動車市場はどの様な状況でしょうか?
A)エジプトの自動車市場は過去数年間で減退が続いており、2017年の新車販売台数は前年度比24%減の12万3,172台と大きく減少しました。変動相場制を含む経済改革によって自動車価格が高騰し、外貨が不足する事態を招きました。これらの要因が、自動車市場の低迷が続く結果となっています。

 

Q)アルジェリアの自動車市場はどの様な状況でしょうか?
A)アルジェリアの新車市場は低迷しており、2017年の新車販売台数は9万8,670台に留まり、2013年時の30万台から大幅な減少となっています。この著しい減少の背景には、アルジェリア国内での現地生産奨励を目的とした輸入規制の実施が挙げられます。最新の記録によると、2017年には輸入許可が下りなかったため、現地生産を行うルノーが国内市場向けに新車販売を行う唯一のメーカーとなっています。この輸入規制が、国内生産をさらに促進する要因となりました。

 

Q)モロッコの自動車市場はどの様な状況でしょうか?
A)モロッコの自動車市場は2017年に16万8,593台を記録し、好調な成長を遂げました。モロッコは現地生産を奨励しており、経済活動の多様化や堅調な経済状況によって好調な成長を見せています。

 

Q)ケニアとナイジェリアの自動車市場はどの様な状況でしょうか?
A)ケニアとナイジェリアの自動車市場は過去数年間で減退が続いており、新車販売台数は著しく減少しています。ケニアは政情も安定し、堅調な経済成長を遂げている一方で、2017年の新車販売台数は1万722台に留まり、2015年の1万9,451台から大幅に減少しています。

ナイジェリアは石油価格の下落に伴い、2017年の新車販売台数は6, 999台に留まり、2013年の約5万台から大幅に減少しました。石油価格の下落が経済に多大な影響を及ぼし、石油関連やその他の事業展開を行っていた企業の多くがナイジェリアにおける事業の閉鎖や国外撤退をする事態となりました。ナイジェリアでは、新車販売の購買者層の多くが企業という特性があるため、企業の撤退も自動車市場にマイナスの影響を与えました。また、、ディーラーは輸入品を購入するための外貨の調達が困難となり、上限金利と経済成長の停滞が自動車市場にもマイナスの影響をもたらしたほか、銀行が中小企業に対する信用取引を控える結果ともなりました。

 

Q)ナイジェリアは将来有望な自動車市場の1つとして挙げられますが、今後の成長においてどの様な課題があるのでしょうか?
A)ナイジェリアは将来アフリカ最大の自動車市場の1つとなることが期待されています。しかしその一方で、新車購入は、石油価格や経済活動の多様化による中期的な影響と密接に関連しています。消費者の購買力は概して非常に低いため、自動車の価格が手ごろになるまでには数十年がかかるでしょう。

もう1つの課題は、自動車購入における資金調達手段の欠如や、高い金利が挙げられます。ナイジェリアでは自動車は現金購入が慣習となっています。現地生産を行う自動車メーカーにとって、新車と価格競争力が高い中古輸入車やその他の輸入車の安価な価格が障壁となっています。ナイジェリア政府は2017年に中古車を輸入禁止としましたが、多くの政府団体や民間団体がこの輸入規制の取り下げを要求していることから、この規制がどの様に自動車市場に作用するのかが注目されます。

また、石油からの歳入減により外貨の著しい不足を招いた結果、ナイジェリアでは輸入品の価格が大幅に上昇しました。この問題に対処すべく、トヨタや日産は国内での組み立て工場を持っています。現地生産車は輸入車と比較してはるかに価格が低いですが、「自動車産業開発計画(NAIDP)」では現地生産車の購入に向けた自動車ファイナンスにおいて、優位性のある金利も計画されています。

 

Q)アフリカ全体の自動車市場の今後の見通しはどうでしょうか?
A)アフリカ自動車市場は、2019年には好調な動きを見せることが予想されます。南アフリカは2019年に堅調な成長を遂げることが見込まれる一方で、補償金なしでの土地の再分配に関する政策に関連した政的判断によっては、市場の成長に影響が及ぶ可能性もあります。

アルジェリアの新車販売台数は成長を続けることが予測されますが、これは現地生産能力に大きく左右されるでしょう。エジプトの自動車市場は安定化が見込まれますが、見通しはあまり好調ではないでしょう。モロッコは、堅調な経済状況をバネに、年間を通じて成長が続く見通しです。ナイジェリアは、石油価格が高騰を続ければ、新車販売台数は2019年に改善が見られるでしょう。ケニアに関しては、自動車市場が正常化し、5%越えの成長が続けば、新車販売台数は高い成長を遂げることが見込まれます。

 

Q)この様な複雑な状況下で、アフリカ市場に進出している日系自動車メーカーにとっては、どの様な課題があるのでしょうか?
A)主要な自動車市場の多くは、輸入の制限と引き換えに現地生産の効率的な増加を目的とした国家自動車政策を策定しています。このため、いざ輸入政策が実施された際に、マツダやホンダ、スバルなどの自動車メーカーの競争力の低下も予想されるでしょう。

アフリカの自動車市場の傾向として、消費者は概ね特定のブランドを継続して購入する傾向があり、他のブランドに切り替えることはあまり見られません。トヨタはアフリカ市場でマーケットリーダーのポジションを維持する一方で、現代自動車や起亜自動車といった新たな市場参加者が競争性の高い製品を武器に新たな進化を遂げています。これらの企業は、現地生産における制限のないアフリカ市場において、大きな影響を与えています。アフリカ中心型の新しい自動車ファイナンスモデルを導入し、アフリカの消費者のニーズに沿った製品を展開することが、アフリカ市場で事業展開する自動車OEMにとって重要となるでしょう。

 

■フロスト&サリバンのアフリカ自動車市場リサーチ一覧:

「南アフリカにおけるフリートリース市場見通し~2020年」(2018年1月発行)

「南アフリカの物流市場見通し~2020年」(2017年11月発行)

「アフリカの将来都市における電動モビリティ市場~2025年」(2017年11月発行)

「アフリカにおける交通および物流市場」(2017年9月発行)

「中東・北アフリカにおける交通および物流市場の見通し~2018年」(2017年9月発行)

「アフリカにおける商用車市場~2021年」(2017年5月発行)

「アフリカにおける商用車市場の見通し~2025年」(2017年5月発行)

「ケニアの物流市場見通し~2020年」(2017年11月発行)

■フロスト&サリバンのモビリティ関連リサーチ一覧はこちら:

2018年発行リサーチタイトル一覧

2017年発行リサーチタイトル一覧

2016年発行リサーチタイトル一覧